その結果、ゲームに描写された暴力的で攻撃的な行為を、プレーヤー自身の攻撃や本当の意味の暴力として、彼らは間違って位置づけをしたのではないかと我々は考える(図4参照)。それは暴力や攻撃性が暴力的なビデオゲームの世界には存在しないと言うことではなく、プレー中に行動で表現する「ある程度の生まれ持った(攻撃的、暴力的な)性質」を持つプレーヤーがいるということである[6]。ただ、他の報酬ベースの競争力の高い行為のように、暴力的な攻撃は、時に「競争的攻撃」と呼ばれているものと混乱することがある。
例えば、「反暴力的なスポーツ」のプロのアメフトを例にとってみる。ランニングバックが広い競技場で走っていると想像しよう。ゴールライン(「報酬」)に近づくにつれ、相手側のディフェンスバックに囲まれるのが見える。それに反応してゴールラインを超える前に敵のプレイヤーのフェイスマスクを掴み、激しくグラウンドに投げつける。 たとえ敵のプレイヤーを怪我させたとしても、反則であっても、ランニングバックの行為を即座に暴力的攻撃を捉えるのは理不尽であろう。この場合、敵のプレイヤーは罪のない見物人と捉えられることはなく、報酬を得る上での障害物でしかない。障害物を排除する(ファウルしてまで相手を倒す)ことは、このパターンのパフォーマンスに対して報酬を得てきたランニングバックが競争的行動スクリプト(この場合、相手を倒してタッチダウンすること)によって何十年もフットボール競技で行っている当たり前のことなのだ。 プレイヤーは攻撃的に振る舞ったとしても、彼らの実行結果において行動が暴力的なようでも、ランニングバックや相手のプレイヤーの行為を暴力的攻撃の結果と扱うのは間違ったことであろう。両者とも、各々の目標を達成するために障害物を排除するという目的で攻撃的に振る舞う、がしかし、競争ベースのタスクを行って報酬を得るという意味では、彼らの行為は定義により、反暴力的、そしてスポーツであるとみなされる[8]。 同様に、いわゆる「暴力的なビデオゲーム」をする者の行為は、当たり前のように攻撃的暴力の描写と呼ばれるが、彼らは攻撃性ではなく、報酬を得ることに対して動機付けられている[9]。暴力的な映画やテレビには同等の作用がないため、視聴する根本的な動機が欠けている、したがって、同じ文脈で評価できないし、するべきではない(see figure 5 図5参照)。 それでも非侵襲脳活動計測(fMRI)の研究は暴力的なビデオゲームは攻撃と暴力に関係する脳の部分を活動的にすると論証する者がいる。真実ではある。
しかしながら、それは報酬ベースのタスクを行う際にも重要な部分だ。つまり、暴力的なビデオゲーム環境で攻撃的に振る舞うものから、チェスやアメフトのように報酬を得る目的で競争的攻撃心を持って行動するものまで、脳の前頭前野で同様の活動がみられるであろう[10]。神経学活動の研究はこれらの報酬ベースの行動を裏付けている[11]。
しかし暴力的なビデオゲームをする者に見られる攻撃的な感情と覚醒はどうであろうか?反暴力的ビデオゲームの支持者は、たとえ短時間でも暴力的なビデオゲームは攻撃的な感情と覚醒を高めると彼らの研究が確実に証明していることを主張する。繰り返すようだが、これは真実である、だがしかし、どういう意味での攻撃性なのか?暴力的攻撃性なのか、それとも競争的攻撃性なのか?(下のビデオを参照)
前述のメタ分析レビューでも述べたように、「非暴力ゲームでも攻撃的な感情が高まることがある…同様に、刺激的な非暴力ゲームは覚醒を高めることがある…」。記事によると一つの理由として、攻撃的で一見暴力的に表現される「欲求不満」がある。先に話したチェスの強化学習モデルを思い出してみると、勝利を追求しながら何度も敗北に耐えなければならない誰かが、その欲求不満から攻撃的に行動する可能性は容易に想像できる。
こうして見ると、反暴力的ビデオゲーム論争の中心にある研究で見られた攻撃性は、暴力ではなく、競争力に動機付けられる、報酬ベースの行動であることは少なくとも可能だ。したがって、その致命的な弱点は、研究成果や方法の精密さではなく、その研究が基づいている前提にある、と我々は信じる。もしビデオゲームを暴力的描写や暴力的メディアと同じように扱い、よってゲーム体験の表面的な側面のみを強調してしまうと、彼らはこれらのゲームの構築の基本である、競争力、報酬ベースの方法論を無視してしまうことになる、そしてそうすることにより、その研究結果の結論を弱いものにしている可能性がある。
ビデオゲームの不思議な暴力パート2bでは、これらの暴力的なビデオゲームに特有の「報酬ベース」のアルゴリズムが、ビデオゲームのメタとして知られる、他のタイプのいわゆる「暴力的なメディア」とどのように区別するかについて話し合う。そして、テレビや映画のように、受動的なメディアに関連する消費行動をビデオゲームのような対話型な形と同じように扱う非実用性を実証する。
(Translation by Anna Bissell.)
[1] 「計算論的認知心理学」 (Computational Cognitive Psychology) 参照:http://ishiilab.jp/kyoto/en/research/computational-cognitive-psychology
[2] 「脳の強化学習」(Reinforcement learning in the brain) 参照:http://ishiilab.jp/kyoto/en/research/computational-cognitive-psychology
[3] 「内部状態」についての情報はビデオゲームの不思議な暴力性パート1を参照:http://www.boomsalad.com/articles-archive/uvv-part1/.
[4] こちらのウェブサイトを参照: http://ishiilab.jp/kyoto/en/research/reinforcement-learning
[5] 戦略もしくはメタの展開については下のパート2bビデオゲームのメタを参照
[6] マシュー博士のインタビュー、2015年6月11日11:38
[7] ワング博士のインタビュー、2015年6月18日30:03
[8] 暴力の臨床定義についてはビデオゲームの不思議な暴力パート1を参照: http://www.boomsalad.com/articles-archive/uvv-part1/
[9] バトルフィールド4での報酬ベース方法論の詳しい例については「僕の寝室の円形刑務所」パート1と2を参照:http://www.boomsalad.com/articles-archive/panopticon/
[10] マシュー博士のインタビュー、2015年6月11日30:27
[11] Mars, Rogier B., Sallet, Jérôme, Rushworth, Matthew F.S.: “Neural Basis of Motivational and Cognitive Control, Part 1: Anatomical Basis Of Control,” ppg 1-5, MIT Press, January 2012 参照