編集者のメモ
20世紀の終わりにかけて、世界中の医学研究者と行動学者は、映画やテレビのようないわゆる「暴力的なメディア」と暴力を描いたビデオゲームなどの類似性に注目していた。BOOM Saladのインタビューに快く時間を割いてくれた多くの方々とその他支援してくれた方々にとっての目的はひとつで、社会の最も弱い立場にある者、子供や若者を守ることである。そのためにもBOOM Saladはこれらの科学者や、なぜ、そしていかにビデオゲームが影響するのか、なぜ私たちに快楽を与えるのか、そしてビデオゲームが一般的に社会に与える必然的な影響を追求してきた人々の努力に感謝し、敬意を示す。
過去数ヶ月の間、BOOM Saladは、ウィスコンシン医科大学の議長、放射線科のヴィンセントP.マシューズ博士、ウィスコンシン医科大学画像科学研究部門准教授ヤングワング博士、オハイオ州立大学通信論と心理学教授ブラッド・ブッシュマン博士を含む、行動とビデオゲームの関係についての研究における先駆者と言われる何人かの研究者にインタビューをした。その研究の議題は、暴力的なビデオゲームは暴力的メディアのジャンル(「暴力的なメディア」の臨床定義を参照)であるという仮定に基づくものであった。このように、従来の研究では、長時間による暴力的なビデオゲームは認識、感情、そして覚醒の攻撃性の上昇を引き起こす可能性が高いことを示した。この原点より、研究者が過去60年間にわたり常に一貫して高暴力的なメディア露出(VME)と攻撃的傾向と攻撃的行動との因果関係が立証されている医療研究の信頼性に頼ることが可能であった。
先代の研究者や今世代の研究者同様、我々が話を聞いた人達は、それらの研究結果の信頼性を確立するうえで十分な財政支援のある世界トップクラスの研究者である。それゆえに、彼らの研究結果の信憑性を疑うことは誤りであり無駄なことである。ただそれは我々が彼らの研究結果に同意しているという訳ではなく、全く正反対で、彼らの研究結果に同意しない正当な理由が我々にはあるのである。
以下、パート2aと2bの「ビデオゲームの不思議な暴力性」では、BOOM Saladはなぜ、どのようにしてこのようなゲームは私たちの行動に影響を与えるのか対立仮説を立てつつ、反暴力的ビデオゲーム論証の核となる理論の根本的な誤りを立証していく。我々の目標は、インタビューした医師達と同様、グローバル社会において一層増え続けるビデオゲームへの関心の根底にある、認識と行動の背景を一掃することである。何が人にゲームをさせるのかを理解することによって、ゲームが人と行動に与える影響を見つけ出すことができる。
いつもながら、我々の努力を楽しんでいただき、それについて考えていただくことが我々の主な目的である。- BOOM。
人がどのように感じているのかをどうやって判断するのか? 一つの方法は、表情(図1参照)を観察することだ。うれしそう、それとも悲しそう? 笑っている、それとも不機嫌な顔をしている?
もう一つの方法は、彼らの声に耳を傾け、声の表情を分析する方法。うれしそうな声か、怒っている声か? 喜び、それとも攻撃的な言葉を使っているか? このような手がかりを通じて、人間は感情や周りの人の行動を「予測」する。
しかし、たとえ視覚と聴覚のデータ全てがあっても、人がどのように感じているのか100%の確信を持つことはありえない。なぜか? 感情は「動的に変化」する「観察不能な状態」であるから[1]。 つまり、感情は直接見えないもの、その人の心理を観察し、どのように感じているかを理解することはできない。それに加え、感情はすぐに変化する。
例えば、映画やテレビなどの視覚メディアを見るとき、番組が進むにつれて異なる感情を感じることは珍しいことではない。2時間の間に一時的に恐怖を感じ、その後に希望や安心、そしておそらく最後には幸せや高揚感を得るかもしれない。エンターテインメント業界は、視覚的にも感情的にも視聴者の関心を引き込んで、購買意欲(テレビや映画を見たり、ゲームを買いたくする)を掻き立てている。
このように、ある人が特定の時点においてどのように感じているのかを判断する際に、私たちにできることは、その人の行動や癖の観察と解釈である。ほとんどの場合、誰かの現在の感情の状態を正確に評価するのにはこれで十分であるが、「観察不能」なものを判断するには限界があるのため、実際の感情を誤って判断してしまう。
これらの観察結果の信頼性を高めるために、医学研究者および行動学者は、多くの理論モデルを開発した。これらのうち最も重要なものの一つは、「強化学習モデル(reinforcement learning model(RL))」として知られている[2]。強化学習モデルは、いわゆる「報酬に基づいた行動」の理解に有効である。
強化学習モデルによると、報酬は、報酬を得るために人が自律的に行動や行動パラダイムを変化させる、いわゆる「オペラント条件付け」につながる動機を引き起こす。例えば子供に数学のテストで良い成績と引き換えに報酬を約束する(図2参照)。この報酬を達成するために、子供は勉強の時間を増やしたり慎重に宿題に取り組んだりと自発的に行動を変化させる。報酬が与えられると、これらの行動変化は、行動アルゴリズムの一部として、後に与えられた環境の中でどう行動するか決定するのに使われる。